【福岡・佐賀】北部九州・工房めぐりの小旅
oct.2016
寒露を過ぎてもまだまだ暖かな福岡の筑後地方。この地の伝統工芸である久留米絣(くるめがすり)の工房へ取材に訪れた。
備後絣、伊予絣とともに日本三大絣の一つともされるが、絣そのものは、もうずいぶんと前に普段着や作業服としての役目を終えた。しかし筑後では、新しい価値を持たせた絣の作品が様々な作り手によって日々生み出されているという。その肌触りの良さや自然由来の技法にこだわる人々には、いまも根強く支持されているのだろう。
ただ、絣の “括り、染め、織り”といった技法はもとより“安心・安全” “アイデアの目新しさ”が何より重要で、古来の意匠にはあまり興味がない(特に若い層)のも事実だ。
過去の意匠を残すには、必然的に新しい意匠も生み出す必要があるのかも知れない。
取材の後に時間をつくることができたので、思い切って肥前まで足を伸ばし、北部九州・窯元めぐりの小旅へ向かう。
*伊万里・鍋島
かつて、佐賀鍋島藩の窯として栄えた秘窯の里、大川内山奇岩が迫る山あいの里は、繊細な色鍋島を描き出すにふさわしい場所だ。少し歩くだけでも、凛とした気高さを感じる。
*有田
かつて、朝鮮人陶工、李参平が有田の泉山に白磁鉱を発見してから、今年で400年。その中でも群を抜く柿右衛門の精緻な濁手。なかなか手は出せないものの、せめてはと脳裏に写しとる。そんな日本の磁器発祥の地、有田にも次代をつくる新たな息吹が……。「2016/」というデザイナーと窯元、商社による国際的なプロジェクト生まれていた。
*唐津
せっかく肥前地方まで来たのだからと、もう一歩足を伸ばして、古窯、唐津へ。文字通り、バケツを返したような土砂降りの雨のなか、山あいの土平窯の戸をたたく。そして静謐な空気が流れる隆太窯のギャラリーへ向かい、雨から逃れつつ、お抹茶を一服。蹴ロクロの乾いた摩擦音をBGMに、しばし無心に作陶風景を拝見。
別の陶房でも「どうぞ見て行ってください」とお抹茶をいただき、締めにやはり、唐人町の太郎右衛門窯へ。大正時代まで数々の作品を実際に焼いてきた唐人町御茶盌窯跡は静かな佇まいで、町の中核となる太郎右衛門窯は美術館の域へ達している大空間が素晴らしかった。
*そして、番外篇
日が落ちてから宿に燻ぶらないのが我々の旅。町が静かなだけにスナックのネオンが際立つ伊万里に、風情ある唐津の夜。活イカを胃袋に納めなければ旅は終わらないと、呼子へクルマを走らせる。朝市を冷やかして、ついでにイカを象った遊覧船で土器崎の七ツ釜を見学。
かつて、朝鮮から連れて来られた陶工たちが遠く故郷を想ったかもしれない景色を遠く眺めつつ、次は波佐見焼や長崎鼈甲も見たいなぁと語りながら、この小旅を終えたのでした。
[文:瀬上昌子/写真:前田義生]